脳出血のリハビリ

脳出血をはじめとする脳卒中の予後には、とにかく早期のリハビリが、治療に匹敵する位に重要だそうです。手足を動かない症状がある人は、出血が収まりつつあると、出来るだけ早く手足を動かすリハビリを始めないと、筋力が衰えることに加え、脳が命令系統の神経の使い方を忘れるので、どんどん回復が遅れ、最悪の場合後遺症が残るのだそうです。

私の場合、足のふらつきと左手の麻痺が主な症状でした。集中治療室から一般病棟に移って数日後からは、手足を動かすリハビリを指導されました。私の入院したのは大病院だったので、理学療法士が常駐しており、昼間の患者が暇な時間に病室に迎えにきて、リハビリ用の部屋につれて行かれました。リハビリの部屋までは、自力で歩いていきました。まずは、病院内を歩行する事も一つのリハビリだという事だったのでしょう。

リハビリ室では、動きづらくなっていた左手で、積み木のようなものを動かしたり、電卓を叩いて計算をしたり、という健常者からすれば実に幼稚な作業を繰り返し行いました。また私がパソコンをよく使う仕事をしているという事で、両手でキーボードを打つ練習などもしました。若干動かし辛さはありましたが、それなりに左手もキーボードを打てました。

私の脳出血の症状は幸い軽症で、酷い後遺症などは特に無かったので、テレビのドキュメンタリーとかでよくある、患者が必死の形相で体を動かそうとしているような、厳しいリハビリとは無縁でした。長嶋茂雄氏も脳卒中(脳梗塞)で倒れられましたが、相当ハードなリハビリを行われていた様子をテレビで見ました。それでも長嶋氏は発声や右手に後遺症が残っています。それに比べれば、私のリハビリなど、無いに等しいレベルのぬるいものでした。

但し、理学療法士の人が組んだリハビリメニューには、少し疑問もありました。自覚症状は無かったのですが、家族曰くどうも顔面にも若干の麻痺があったようで、笑ったときに左側の口角があがっていなかったようなのです。確かに暫くの間は、自分で意識しても左側の口角を大きく上げられませんでした。しかし私が普通に会話できていたためか、理学療法士の方からは後遺症とみなされず、簡単な発声練習と参考パンフレットみたいなものをもらっただけで、顔の筋肉を使うリハビリは行われませんでした。

私の母親は「絶対に表情に違和感があるから、顔の左側を動かすトレーニングをしておくべきだ」と忠告されました。鏡で自分の顔を見てもさほど違和感を感じませんでしたが、母は「麻生太郎のように口元が歪んでいる」というのです。確かに僅かな顔の歪みとかは、元の顔を知っている身内でないと分からない部分で、理学療法士が気付かないのも無理ない事です。なので、暇な時に顔の筋肉を動かす練習をしたり、食事をなるべく左側で噛むなど、意識的に顔の左の筋肉を使うようにしていました。しかしそれでも、母が「表情が自然な感じに戻った」と言ったのは、退院して随分経ってからでした。

私は幸い、現在まで目立った後遺症は残っておりません。退院直後はしゃっくりが頻発する後遺症がありましたが、それも時間と共に自然に治まりました。